東京地方裁判所 昭和55年(特わ)240号 判決 1980年7月16日
本籍
東京都江東区大島五丁目七五〇番地
住居
埼玉県越谷市蒲生三丁目三番三三号
飲食店経営
大澤進
昭和一五年五月一三日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官寺西輝泰出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年及び罰金二、〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間、右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、埼玉県越谷市蒲生三丁目三番三三号に居住し、東京都江東区住吉二丁目一四番八号尾崎マンション五〇六号室に事務所を置き、同都内一〇か所(昭和五一年は八か所)に店舗を設けて「ニユーブルームーン」等の名称でサロン等の飲食店を経営していたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外して簿外預金を設定し、また同都港区新橋三丁目一六番一一号所在の「ニユーブルームーン」ほか二店舗の昭和五一年分の収入及び右「ニユーブルームーン」ほか三店舗の同五二年分の収入についてはいずれもその一部を従業員名義で所得税の確定申告をするなどの方法により所得を秘匿したうえ
第一、昭和五一年分の実際総所得金額が四、六三〇万三、二六二円(別紙(一)修正貸借対照表参照)あつたのにかかわらず、同五二年三月一四日、埼玉県春日部市大字粕壁字浜川戸五四三五番地の一所在の所轄春日部税務署において、同税務署長に対し、同五一年分の総所得金額が二四一万八、〇〇〇円でこれに対する所得税額が一三万七、六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和五五年押第六八九号の一)を提出し、もつて不正の行為により、同五一年分の正規の所得税額二、二〇九万二、五〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)と右申告税額との差額二、一九五万四、九〇〇円を免れ
第二、昭和五二年分の実際総所得金額が七、六三七万六、三五二円(別紙(二)修正貸借対照表参照)あつたのにかかわらず、同五三年二月二四日、前記春日部税務署において、同税務署長に対し、同五二年分の総所得金額が三四六万三、四〇〇円でこれに対する所得税額が一五万九、八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和五五年押第六八九号の二)を提出し、もつて不正の行為により、同五二年分の正規の所得税額四、二一九万四、一〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)と右申告税額との差額四、二〇三万四、三〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
一、被告人の当公判廷における供述
一、被告人の検察官に対する供述調書四通
一、被告人作成の申述書二通
一、被告人ほか一名作成の申述書三通
一、榊原豊三郎及び大澤ヤイの検察官に対する各供述調書
一、株式会社五分利屋錦糸町店代表取締役立田卓夫作成の申述書
一、収税官吏作成の現金、預金、売掛金、未収入金、たな卸、前貸金、貸付金、保証金、大進勘定、店主勘定、造作、音響器、車両、店舗権、電話加入権、支払手形、未払金、買掛金、榊原酒店買掛金、五分利屋錦糸町店買掛金、借入金、未納料飲税、預り金、預金利息、譲渡所得及び店舗別事業規模等に関する各調査書各一通(但し、保証金、造作及び店舗権については各二通。支払手形については三通。)
一、押収してある所得税確定申告書二袋(昭和五五年押第六八九号の一及び二)
(法令の適用)
被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも所定の懲役と罰金とを併科し、各罪につき情状により同条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪につき定めた罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金二、〇〇〇万円に処し、同法一八条により右罰金を完納することができないときは金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用し、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の事情)
被告人の判示各所為は、自己の営業にかかる八乃至一〇店舗の飲食店のうち、自己名義となつている一店舗のみについてしか所得を申告せず、他の店舗については、無申告あるいは営業許可を受けている従業員名義でつまみ申告したうえ、昭和五一年、同五二年の二年間にわたつて六千万円余りの税金を免れたというものであるところ、脱税の動機には格別斟酌すべきものもなく、ほ脱率も一〇〇%近いものであつて、その犯情は軽視することができない。
しかしながら、ほ脱額も右の程度に止まり、昭和五一年、同五二年の各年度について修正申告したうえ、両年度につき、分納とはいえ、本税、延滞税、重加算税等の支払に応じていること、本件犯行の発覚後反省し、新しく選任した税理士の指導・監督の下に正しい申告をする旨供述し、右税理士も協力を約していることなど被告人に有利な事情も認められ、その他本件に現われたすべての事情を総合考慮し、主文のとおり量刑する。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 久保眞人 裁判官 川口政明)
別紙(一)
修正貸借対照表
大澤進
昭和51年12月31日
<省略>
別紙(二)
修正貸借対照表
大澤進
昭和52年12月31日
<省略>
修正貸借対照表(総括表)
大澤進
昭和52年12月31日
<省略>
別紙(三)
税額計算書
<省略>